人工知能 (artificial intelligence: AI) は人間が知能を用いて行っている作業や判断を機械に行わせる研究分野である. AI はディープラーニング (深層学習) と呼ばれる技術の進歩により近年急速に発展しているが, 1950年代から続いている比較的歴史の長い研究分野でもある. 本稿では AI 技術の成果である
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の音声認識機能を診療現場で利用する手法を紹介する.
一つは,
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をそのまま「難聴者」として扱い, 環境の検証を行う方法である.
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に CI-2004 を施行するとおおむね成人一側人工内耳装用者に相当する聴取成績であった. すなわち,
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に聞き取れない環境は, 成人一側人工内耳装用者の半数が聞き取れない環境であると言えた.
二つ目は,
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の音声認識を用いて発話明瞭度を客観的に検証する手法である. これまでの言語聴覚士の主観的評価では言語聴覚士の聞き取り能力が高すぎて「なんでも聞き取れてしまう」, 患者個人の話し方に慣れてきて何を話しているか分かってしまう学習効果の問題などがあったが,
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はあくまで客観的に判定した. この機能を使って喉頭摘出後の代用音声を用いたリハビリテーションにおける評価に利用できた.
三つ目は, 難聴性構音障害者の構音訓練に利用する手法である. 難聴者は自分の声が聞こえないため構音が乱れてくる.「
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にはどう聞こえたか」という, AI 的な聞き取りのフィードバックを利用することで難聴者が難聴のまま構音訓練できる環境を構築できた.
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のような身近な機器は患者/利用者が持ち帰ってどこでも使うことができる. AI 研究の成果の一つである音声認識技術を診療現場で役立てるアイデアは未来の医療ではなく, 医療者側の工夫ですでに十分活用可能な現在の技術である.
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