イン
スリ
ンは糖脂質代謝の主要な調節因子であるだけでなく、血管内皮細胞に作用して、内皮型一酸化窒素合成酵素(eNOS)をリン酸化することにより活性化し、血管内皮よりのNO産生を増加させて内皮依存性の血管弛緩反応を亢進させる。事実、イン
スリ
ンは生体において血管弛緩作用を有し、血流増加作用を示すことが報告されている。また、イン
スリ
ン抵抗性を示す肥満者では、イン
スリ
ンによる内皮依存性の血管弛緩反応やアセチルコリンで刺激した際の内皮依存性の血管弛緩反応が低下していることが明らかにされている。一方、イン
スリン抵抗性状態に伴って生じてくる高インスリ
ン血症は高血圧や動脈硬化といった血管機能と関連した病態を誘導することが多数の疫学研究から明らかにされており、高イン
スリン血症状態でのインスリ
ンの血管壁への作用が注目されている。しかしながら、イン
スリ
ンの血管壁への直接作用がもつ生理的あるいは病理学的意義に関しては不明な点が多い。イン
スリ
ンによる血流増加作用が組織の糖取り込みにも関与するか否か、あるいはイン
スリ
ンが直接動脈硬化を誘導するか否かなど議論を呼んでいる点も多い。動脈硬化とイン
スリ
ン作用に関しては、全身のイン
スリ
ン抵抗性状態を反映して、血管壁にもイン
スリ
ン抵抗性がみられ、イン
スリ
ン作用が低下することで血管障害を引き起こすと考える説と高イン
スリン血症に伴うインスリ
ンの血管壁への過剰な作用が平滑筋細胞の増殖を促し動脈硬化を促進するという仮説がある。これまでの研究より、イン
スリ
ンの血管壁作用が抗動脈硬化作用と動脈硬化促進作用の2面性を持つことが明かにされているが、臨床的にみられる高イン
スリ
ン血症がどのように動脈硬化を進行させるのかに関してはまだまだ不明なままといえる。今回の発表では、現在までに明かにされているイン
スリ
ンの血管壁に対する作用を我々のデータを含めて提示して、イン
スリ
ンによる血管壁への作用の病理学的意義について述べる。
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