1.はじめにミャンマーでは、19世紀半ばよりタウンヤによる
チーク
造林が継続的に営まれてきた。タウンヤとは、樹木の植栽と同時に農作物を間作し、林冠閉鎖後は樹木の保育のみを行って人工林を造成する、造林主体のアグロフォレストリーである。ミャンマーの
チーク
人工林では、造林後5年、10年、20年、30年、40年目の計5回、間伐が行われる。当初の計画では、
チーク
人工林は40年目の最終間伐以降は天然林と同様に扱い、ビルマ式択伐法により
チーク
を産出する予定であったが、造林後長期を経ても、
チーク
人工林の植生は天然林のものとは大きく異なっていた(Saw Kelvin Keh 1996)。しかしながら、ミャンマーの
チーク
人工林の植生に関する定量データの蓄積は乏しく、また、
チーク
人工林の植生動態に関するデータはほとんどないのが現状である。本報告では、造林初期から造林後100年近くが経過した林分まで様々な林齢の
チーク
人工林の植生データを用い、
チーク
人工林の植生動態について論じる。また、
チーク人工林とチーク
天然林の植生の違いが、
チーク
造林の長期的な持続性に及ぼす影響について論ずる。2.方法ミャンマー・バゴー管区のToungoo district, Oktwin Townshipにおいて、林齢4-96年の
チーク
人工林に30m×30mの試験区を計9プロット設置し、DBH1cm以上の木本種を対象に毎木調査を実施した。また、比較対照のため、周辺の
チーク
天然林に1haの調査区を設置し、同様の調査を実施した。3.結果と考察
チーク人工林ではいずれの林齢においても胸高断面積の大部分をチーク
が占めていた。
チーク
以外の木本種の胸高断面積の割合は、林齢35年以下の林分では全体の3-8%程度、林齢80年以上の林分でも1試験区を除き9-10%程度で、
チーク
人工林内への木本種の旺盛な侵入・生長はあまり認められなかった。一方、
チーク天然林ではチーク
以外の木本種の胸高断面積合計は全体の76%であり、人工林に比べ非常に高い割合を占めていた。 また、
チーク
人工林における木本種の林齢別の胸高直径階分布から、年数の経過に伴う
チーク
の肥大成長と、間伐等による
チーク
の個体数減少の様子がわかる。また、いずれの林齢においても
チーク
は特定の胸高直径階に集中し、造林後80年以降の林分でDBH40cm未満の
チーク
が認められておらず、
チーク人工林ではチーク
の天然更新はほとんど起こっていない。一方、
チーク天然林ではチーク
の胸高直径階分布はL字型を示しており、
チーク
は順調に更新しているものと思われる。また、
チーク人工林内のチーク
以外の木本種は、いずれの林齢においてもDBH30cm以上の個体は稀であり、年数の経過に伴うDBHの増大はほとんど認められなかった。人工林内に侵入した木本種の生長を妨げている要因は定かではないが、野火による幼木の焼失、不法伐採等の人為的攪乱、タケ類による被圧等の可能性が考えられる。また、間伐作業の妨げとなる個体は必要に応じて除伐されるため、林齢40年以下の人工林ではその影響も無視できないものと思われる。ミャンマーの
チーク
造林は、一斉林を造るシステムとしては一定の成果を挙げてきたように思われれる。しかし、人工林では天然林に比べ
チーク
の後継樹がほとんど育っていないため、人工林での継続的な
チークの産出にはチーク
の再造林が必要であると思われる。特に、ミャンマーの
チーク
造林の主幹をなすタウンヤ法を行うには、
チーク
主伐後に残存する樹木を伐採・焼却して農作物間作を行う必要があるが、人工林内に侵入・定着した木本種がわずかであれば、火入れのための材料が不足し、間作物の良好な生育に必要な焼土効果、焼却灰の施肥効果、雑草抑制効果等が期待できない可能性がある。以上のように、
チーク
人工林において、1)
チーク
の天然更新が稀であること、2)木本種の侵入・生長が旺盛でないことは、タウンヤ式
チーク造林による持続的なチーク
の産出に悪影響をもたらす可能性があることが示唆された。今後は、タウンヤ造林2サイクル目以降の植生・土壌に関する実証的調査が必要とされる。
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