本論文の目的は,イノベーションの発生メカニズムを明らかにするという問題意識のもと,従来,開発主体にとって外生的な偶然性によってしか説明されてこなかった創造段階のメカニズムを,開発者の主体性という視点からとらえなおすことである.本論文では偶然性は戦略的に選びとれると主張する.進化論的アプローチの「イノベーションが偶然訪れる」という主張を擁護してしまうが,まったくランダムに試行錯誤を展開しても,イノベーションへ到達する保証はない.そこで開発者の主体的な相互作用のプロセスが,開発競争での多数派と少数派の形成を経由して,開発者の経験する偶然に差を生むとえる.青色LEDの開発事例の記述・分析を通じて,この論理を具体的に示した.
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