【背景】ビネオマイシンB2 (1)は1977年に単離されたアンスラサイクリン系抗生物質である。1の生理活性として、グラム陽性菌に対する抗菌活性及び肉腫sarcoma 180に対する抗腫瘍活性が報告されている1。また、1の構造的特徴としては、アントラキノンにオリボースがC-グリコシド結合を介して連結した構造と3級グリコシドを含む2つの高度にデオキシ化された糖鎖部分(アクロシルロジノシド)を有することが挙げられる。このように、1は顕著な生理活性と興味深い構造を有することから、合成および生物化学的研究の対象となってきた。事実、これまでに、1のアグリコン部分に相当するビネオマイシノンB2メチルエステル (2)の合成が6例報告されている他、近年ではビネオマイシン類の有する
デオキシ糖
鎖部分自体が細胞毒性を有することが報告されている
2。しかしながら、
デオキシ糖
鎖部分を含めた1の全合成及びアントラキノン部位と
デオキシ糖
鎖部分の双方を含めた詳細な構造活性相関研究は未だに報告例がない。このような背景の下、演者らは、効率的
デオキシ糖
鎖合成法を開発し、これを応用することで1の初の全合成を達成した。さらに、1のアントラキノン部分と
デオキシ糖
鎖部分を変換した種々の類縁体を合成し、各構成要素に関する詳細な構造活性相関研究を行った。
【2,3-不飽和糖を用いた化学選択的グリコシル化反応の開発】細胞壁分解酵素リゾチームによるムコ多糖の位置選択的加水分解反応を模倣し、2種の新規2,3-ジデオキシグリコシルドナーをデザインし、グリコシル化反応における反応性について検討した。その結果、同じ脱離基を有するこれらの糖の反応性は、2,3-不飽和糖>2,3-飽和糖>2,3-不飽和-4-ケト糖の順であることを明らかにした(Figure 1)。さらに、これらを用いた化学選択的グリコシル化反応による効率的な
デオキシ糖
鎖合成が可能であることを見出した
3(Scheme 1)。
Figure 1
Scheme 1
【ビネオマイシンB2の全合成】本化学選択的グリコシル化反応を鍵反応として、抗生物質ビネオマイシンB2 (1)の全合成研究を行った。1のアグリコン部分に対する
デオキシ糖
鎖部分の導入においては、求核性の低いb-オキソ-3級アルコールに対して、高度にデオキシ化され、かつ酸性条件下不安定な糖鎖部分(アクロシルロジノース)を導入する必要がある。このことを考慮し、1は適切に保護されたアグリコン部分14に対して、2つの
デオキシ糖
鎖部分17を同時に導入した後、官能基変換を行うことで得ることとした。また、アグリコン部分14は、鈴木らのビネオマイシノンB
2メチルエステル (2)の合成
4を参考とし、スズ体16と光学活性なアルデヒド15との連結を経て、短行程で得ることとした。さらに、
デオキシ糖
鎖部分17は、2,3-不飽和糖18と2,3-飽和糖19との化学選択的グリコシル化反応により効率的に合成することを計画した(Figure 2)。
Figure 2
アグリコン部分14の合成をScheme 2に示す。TMSOTf存在下、無保護のD-オリボース (20)とアントロール21とのC-グリコシル化反応5によりC-グリコシド22
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