IGCP-355の研究で,
ドレーク海峡
やインドネシア海路などの開閉の年代が明確になった.この成果を踏まえると,これまで地域的な地質・古生物学的事件と考えられていた事象が,この開閉事件に関連していることが示唆されるようになった.例えば,サハリンでの漸新世と中新世の境界で認められたシリカのバイオマーカーの変化は,珪藻群集の組成変化であるが,これは北半球高緯度での冷水塊の出現に対応したもので,さらにその出現が
ドレーク海峡
の成立と南極循環流を反映したものであると考えられるからである.また,わが国の八尾-門ノ沢動物群の二枚貝
Hataiarcaの本邦への侵入事件は,17 Maのインドネシア海路が赤道地域で閉鎖された結果,黒潮が形成され幼生が海流に依存してわが国に伝播した可能性が高い.
本論では日本列島の新生代貝類化石群をあらたな統合微化石層序に基づいて再編し,それらの古環境を再解釈した.特に新第三紀の貝類化石群は明世-椚平動物群(20-16.6 Ma)と八尾-門ノ沢(16.4-15.3 Ma),茂庭動物群(15.3-15 Ma),古期と新期の塩原-耶麻動物群などに区分され,これらは基本的に熱帯から亜熱帯・暖温帯・中間温帯・冷温帯へと数百万年単位で,徐々に冷温化した海洋環境を反映したものと解釈される.さらに最新の珪藻化石層序に基づいたベーリング海峡の断続的開閉の年代的変遷の詳細が明確になり,これに伴う本邦の貝類化石群集の変化なども論じた.
今後の新生代研究の重要課題として,精度の高い年代決定に基づいた地域的な地質学的事件と地球規模の事件を対比すること,さらに,事件と事件の時空分布を検討し,事件が生じた原因を多角的に追究する必要がある.
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