一般的に矯正治療は, 修復・補綴学的な咬合治療と異なり, 全顎的な咬合再構築となることが多い.咬合再構築を行うと, 咬合の変化にともなって下顎や脳頭蓋系の変化・適応が起こる.それゆえ, とくに若年者に対しては, その適応を利用して治療することも可能であるが, 一方では不注意な咬合変化を与えると機能障害を誘発する危険性が高い.その意味で, 顎位が重要となってくる.この顎位の確認がきちんとされているかによって矯正治療の結果が左右されると思われる.どこの下顎位で咬合を作り上げるのかによって歯の移動方向や量に違いが現れてくるため, まずは目標とする下顎 (TRP) を設定することが大切である.「顎位は目に見えにくい」ものであるので, 機能障害を検査するのに, 当院では, 各セファロ分析, 機能分析以外にSAM咬合器, 下顎位診断器 (MPI) とCADIAXなどを使用している.
また, 骨格性不正咬合を脳頭蓋底との関係を視野にいれた垂直的高径の問題として捉えることにより, 改善可能な不正咬合が多く存在することがわかってきた.成人における関節円板の転移は3割以上あるとの論文もあり, 審美的な面だけでなく各個人による矯正治療目標としての機能咬合が確立されていることが大切である.
抄録全体を表示