脳腫瘍の発生は60才以上ではまれであり, またその症状も典型的なものは少ないとされている. 著者らは最近数年間に経験した髄膜腫4例と松果体腫1例を報告した.
髄膜腫の4例はいずれも75才以上の女子で (第1例75才, 第2例82才, 第3例75才, 第4例79才), 松果体腫の1例は63才の男子である. 発生部位は症例順に前側頭, 側頭, 頭頂穹隆, 翼状突起下および側脳室下と一定していない. 大きさは2×1cmから5×4.5cm大にわたり, また組織学的には髄膜上皮性髄膜腫3例, 線維芽細胞性髄膜腫およびやや未分化な松果体腫それぞれ1例で, いずれもその存在は剖検によってはじめて判明したものである.
臨床的には, いずれも脳血管障害による脳卒中とされ, 顧みて, 腫瘍による症状を呈したものは3例 (第1, 2, 5例) で, 第1例および第5例では脳実質の変化はなく, 第2例では髄膜腫よりの出血がクモ膜下に及んだ. これは最近2年間に剖検した脳血管障害死64例中の3例, 4.7%に相当する.
一方, 2×1cm大の比較的小さな腫瘍 (第3, 4例) では, 2例とも圧迫症状その他の症状はみられず, いずれも共存する脳軟化により生前の臨床症状が説明される.
以上髄膜腫は, 老年者脳腫瘍の中では剖検上かなりの頻度にみられるにもかかわらず, その進展が遅いためか, 圧迫症状などを呈することがまれで, したがって生存時は, 無症状ないし脳血管障害と誤診される可能性の高いことをのべた.
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