心電図の短波無線搬送装置を使用し, 重量挙競技中の心電図を記録した。被験者が楽に挙げ得る軽い重量と, 挙げ得る最も重い重量の2種類のパーベルを用いて, それぞれ, プレス, スナッチ, ジャークの3種目について実験を行ない, 競技による心搏週期の変動経過について考察し, 次の成績を得た。
1) 重量挙げ開始前には, 被検者の全例に心搏週期の急短縮が認められ, 一部にはその後再び急延長するものもあった。
2) 重量挙げの心搏週期の変動経過は,
バーベル
をにぎり始めた直後の心搏週期の変動により, 次の3型に分類できる。
第1型: 直後心搏週期の急短縮するもの,
第2型: 直後心搏週期の延長するもの,
第3型: 直後心搏週期に動揺なく, 徐々に短縮するもの。
これらの違いは, 胸廓の変形, 胸腔内圧の変化, 下肢よりの反射, スタートの合図から
バーベル
をにぎり始めるまでの時間, 呼吸とのタイミング関係等の影響によるものと考えられる。
3)
バーベル
をにぎり始める直前, およびにぎり始めてからの心搏週期の短縮および延長, ならびに動揺的短縮は, 陸上競技の短距離疾走時の心搏週期の変動経過と類似している。
4)
バーベル
挙上後, 心搏週期には多くの例で0.01~0.28秒の延長がみられた。
5) 競技中には, 心搏週期の急激な動揺はほとんど認められなかったが, これは重量挙が位置の移動を余り伴なわない静的な運動であり, 主として上肢が運動するため運動筋よりの反射効果も少ないためであろうと推察される。
6) 競技中の心搏週期の短縮の程度は, プレスで最も少なく, 次いでスナッチで, ジャークの場合に最も強いが, これは負荷の強弱および挙上時間の差, 下肢の反動等によって, ジャークの場合に心臓に加わる負荷が最も大きいためと考えられる。
7) 競技終了後, 若干例をのぞき, 心搏週期の短縮は数秒間持続する。
この論文の要旨は昭和39年6月第18回日本体力医学会総会 (新潟) において口演発表した。
終りに臨み, 岡芳包教授の御指導と御校閲に深甚なる感謝を捧げると共に, 宇都山登講師及び野田幸作博士の御助言と御支援, ならびに終始実験に御協力いただいた徳島県立徳島工業高等学校藤原八郎教諭をはじめ重量挙部選手諸君に厚く感謝の意を表する。
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