近年の中世イタリア史研究は、半島における事実上の主権者が「五大国」に限定されるとされてきた一五世紀後半のイタリア同盟体制を再検討し、自立的・半自立的な多様な政治的主体による公式・非公式の国家間関係を明らかにしている。本稿はこれを受け、地域主体の視点から国家領域を相対化し、イタリア半島とアルプス山脈周辺地域における地域的主体相互間の平和形成の試みを分析する。ミラノ公国に属するオッソラ渓谷と、ヴァリス司教内の諸地域の間で一四・一五世紀に繰り返された争いと平和形成の中では、スイス盟約者団による仲裁、ミラノ公とヴァリス司教の国家間関係における在地的紛争解決の新たな 位置づけ等を経て、地域間の自立的紛争解決の方法も一種の「国際化」をなしとげた。同時に君主間の振る舞いの文化にも影響を与え、地域と地域の繋がりと変容によるオルタナティヴな地域秩序としての「間地域性(インターローカリティ)」を形成していったのである。
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