寄生性原生動物については今迄にも色々報告されているが,甲殻類に寄生するものについては極めて少ない。甲殻類は一般に,脱皮を行なうので鰓や体表面に寄生した原生動物等はその都度脱落してしまうが,次の脱皮までの間に,有機物や下等藻類等が鰓に附着すると共に非常に多数の原生動物が再度寄生する。そのため養殖エビ等は大量斃死を起こすと云われている。著者は,近年,数種の甲殻類の鯛に寄生する原生動物について若干の知見を得たので今回は
フナムシ
について報告する。尚,この調査研究にあたり生前懇切な御指導を賜わりました恩師の故福井玉夫博士の霊前にこの報告論文を捧げます。本研究は1954年〜1956年,1961年〜1967年の2期について行なった。材料は,内湾に面した汚れた海岸(横浜市)と,外海に面した清澄な海岸(油壷等)とで比較するため採集した。調査研究の方法は,はじめ生鮮個体について,ついで核染色をしたのち同定を行なった。そのあと次の諸点につき検討した。1)個々の
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の鰓における原に動物の寄生位置及び数。2)鰓の外鰓葉及び内鰓葉の別動寄生状況3)各鰓葉節と寄生との関係4)
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の雌雄差による寄生状態5)季節別の寄生状態6)採集場所と原生動物の相関性等について行なった。
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の鰓は図1の示したように内,外鰓葉共左右各5葉ずつ合計20葉あり,このうち雌雄共に第1鰓葉は,内外共に著しく小型化しており,雄の第2内鰓葉は雄性突起として変形している。今回供試した
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の数は合計1506個体で,内湾に棲息のもの876個体,外洋に面した所に棲息のもの630個体て,雌雄比はほぼ1:1こであった。今回の調査研究で見出された原生動物は,Ciliata(繊毛虫類)が3科9属25種,Suctoria(吸管虫類)が3科5属9種であり,内湾棲息の
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には内湾性(brackishwater)の原生動物が殆どであり,外洋に面した所のものでは外洋性の種が主で,ごく数種が両水域から見出された。いずれの場合もEpistylidaeとVaginicolidaeが優占種であった。又,寄生部位も,内鰐葉,外鰐葉の別,及び,各第1〜第5鰓葉の別,そして各鰓葉の寄生部位に著しい差が認められた。しかし,これらと原生動物の種類との間には差は認められなかった。季節と寄生原生動物の問には明らかに関連がある。これは,主に水温の季節的差による消長と思われる。
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の採集地別による寄生種の差も認められた。
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