研究背景と目的
国際山岳リゾートは,労働力需要の繁閑リズムが著しく変動する季節性の生じる観光目的地の一形態である.その反面,訪問者数が増加する一部の著名な国際山岳リゾートでは,必要な労働力を地域内部で調達できず,どのように外部労働力を吸引して地域労働市場が存立しているのかが不透明である(Ooi et al., 2016; Terry, 2016).
本発表で対象とする
ブリティッシュコロンビア州
ウィスラーは,自治体主導の強力なガバナンスのもとで,訪問客増加とリゾート産業の通年化が進み,それに付随して労働力需要が拡大している国際山岳リゾートである.他方,土地開発により地価の上昇が生じたことで,家賃や生活費が高騰しており,労働力需要過多な地域労働市場が形成されている.本報告では,労働力需要の増加する国際山岳リゾートにおいて,地域労働市場存立のために外国人労働者が果たす役割を,ウィスラーの事例により検討する。
結果と考察
非都市圏で通勤圏の限られたウィスラーでは,市民権労働者(地域住民)に加えて,外国人労働者が労働力供給源として重要である。彼らの滞在パターンは,定住,定住志向,季節滞在の3種類存在する.また,それぞれの労働者は,労働市場におけるさまざまな職階級や雇用形態に対応することで,労働力の需給関係が成立している.
その一方で,外国人労働者のビザの保有状態や出身国などの属性,国際移動目的に注目すると,異なる生活形態やキャリア経歴,将来の意向を有する複数タイプの外国人労働者が存在することが明らかになった.それらは,「キャリア構築」「レクリエーション重視」「賃金・永住権獲得」に分けられた.これまで,国際山岳リゾートにおける外国人労働者は,経済移民を除いて,レクリエーションを重視し,移住先で新たな事業サービスの創出や地価の上昇といった地域社会の経済的価値の向上に寄与する一面をもつこと(Ooi et al.,2016)が指摘されてきた.それに対して,キャリア構築型では,一部の大都市同様に,キャリア構築を第一義的な目的に国際移動するという一面がみられた.
加えて,本研究では外国人労働者の移動・定住の過程に注目して定量・定性的に分析した.その結果,ウィスラーでは,労働力需要の拡大する局面において十分な内部労働力が供給できず,外国人労働者を取り込んだ地域労働市場が存立している.彼らは,語学や職業スキルを磨き,昇進や転職,起業を通じて永住権を獲得して定住する過程,およびワーキングホリデー・ビザをもち,またレクリエーション目的の実現指向をもつ季節労働者として発地国や次の移動先との間を循環する過程という,2つの過程をともない,地域労働市場の繁閑リズムや労働力需要に対応していることが明らかとなった。
参考文献
Terry, W. 2016. Solving seasonality in Tourism? Labor shortages and guest worker programmes in the USA. Area 48: 111–118.
Ooi, N., Mair, J. and Laing, J. 2016. The transition from seasonal worker to permanent resident: Social barriers faced within a mountain resort community. Journal of Travel research 55: 246-260.
謝辞 本研究を進めるにあたって,公益社団法人日本地理学会「2017年度 斎藤 功研究助成」の一部を使用した。
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