【目的】本研究では,食肉の形状を変えることなく軟化させる方法について,加熱方法と食品品質改良剤の浸漬による軟化処理により,物性・嗜好性・咀嚼性の点から検討した.
【方法】試料には豚ヒレ肉を半解凍で幅2 cm,高さ1 cm の直方体に形成後,蒸留水および3% 食品品質改良剤溶液(スベラカーゼミート®((株)フードケア))に15 時間浸漬し,普通鍋は10 分間,圧力鍋は8 分間加熱を行なった.試料の浸漬前後の重量,加熱調理後の重量より,重量増加率および重量減少率を算出した.レオメーターを用い,貫入応力,貫入エネルギーおよび硬さ,凝集性,付着性を求めた.また,5 段階採点法で,8 項目について,若年者と高齢者を対象として官能評価を行なった.筋電図は若年者を対象とし,舌骨上筋群(開口筋)と咬筋(閉口筋)を測定し,咀嚼開始から第一嚥下までと第一嚥下以降についての解析を行った.
【結果】軟化処理試料は軟化未処理試料と比較して,重量減少率が低く,貫入応力および貫入エネルギーが小さいことがわかった.また,テクスチャー特性の硬さは軟らかくなった.官能評価では,若年者および高齢者とも,軟化処理試料は軟らかく,まとまりやすく,噛みやすく,飲み込みやすく,おいしい,という回答を得た.筋電図測定では,咀嚼開始から第一嚥下までは,咀嚼回数が減少し,活動時間および咀嚼活動時間が短縮し,咀嚼活動量も低下した.また,第一嚥下以降は,食肉のまとまりがよいほど咀嚼時間が短縮した.加熱方法の比較では,圧力鍋加熱試料は普通鍋加熱試料より,重量減少率は高く,貫入応力,貫入エネルギーおよびテクスチャー特性の硬さが小さくなることがわかった.さらに,圧力鍋加熱・軟化未処理試料では,凝集性の著しい低下が認められた.
【結論】食肉に市販食品品質改良剤を用いることにより,酵素および保水性の向上による軟化が起こり,咀嚼障害のある高齢者に有効であり,食べやすさに繋がることを明らかにした.また,圧力鍋加熱は,普通鍋加熱より貫入応力・エネルギー,硬さが低くなる傾向を示した.
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