九州・中国・四国地方における
Trichophyton tonsurans感染症の現状を把握するため,皮膚科医に対する問い合わせ・アンケートなどによる調査をおこなった.回答の得られた全ての地方において,柔道部の学生の間に,菌学的な確認はないながら
T.tonsuransによると思われる頭部白癬,体部白癬の流行が見られていた.
長崎市においては,菌学的に確認され治療を受けた患者の所属する1高校柔道部員21名とその教官1名について,
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による真菌の分離を試み,全員陰性の結果であったが,その後も部員間に散発的に患者の発生が見られた.
佐賀県では集団発生の見られた高校をはじめ,同県下の高校12校の柔道部員179名,レスリング部員2校21名,中学生柔道部員7校69名につき
ヘアブラシ
による真菌の分離を試みそれぞれ48名,7名および1名から,また胴着2着から
T.tonsuransを分離した.
中国地方におけるアンケート調査もふくめた今回の調査結果から,今後の
T.tonsurans感染症流行の阻止のためには,皮膚科医および一般,特にスポーツ関係者への周知が不可欠であるが,菌学的な確認が出来ないために報告されずにいた症例が多く,流行の実感に乏しかったこと,このために有効な感染諸対策が遅れがちとなったことが痛感された.
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