(1) 最近まで,植物病理学の研究では,植物の集団的病害を組織的に調査したものがなかつた。しかしながら,個々の病原体の生物的特性について,また各種植物の罹病条件について集積されている広範な資料は,これらの存在する資料を総合的に考察することによつて,植物流行病の出現とその伝播を支配する法則性の研究上,大きな力となるであろう。
(2) 本論文では寄生菌と寄主植物との生態的調査をもとにして,自然界で観察される植物流行病の分類についての研究成果を発表した。上述したところでわかるように,樵物流行病の分類のもつとも簡単な方式は,ある地域に分布する病害の調査をもとにして構成されうると思われる。
(3) われわれの調査は主として自然界の条件で行なつたものであつて,そこではあらゆる現象が病害の発生と伝播とに関連していて,もつとも純粋な形態をとつており,トウヒ林の流行病をつぎのような型に分けられることがわたつた—1) 全面的流行病, 2) 地域的流行病, 3) 局地的流行病, 4) 分散的流行病。そしてまたこの森林中では,すでに植物流行病の性格をもたない罹病がみかけられたので,それらをつぎの2つの罹病型に分けた—5) 孤立的罹病, 6) 偶発的罹病。もちろん,自然界にみられる植物病害の型には各種さまざまなものがあり,この分類をもつて完全なものとは考えていない。
(4) 論文中でふれた問題(種々異なる植物群落と地理的条件)の研究は,きわめて望みの多いものと考えられる。とくに興味深いのは,寄主植物分布の限られた地域における流行病の発達の特性を追求することである。このような調査は環境条件の変化と,寄生菌の侵入に対する生物体の抵抗性の程度との間の関係を明らかにすることができる。
(5) 実際問題として,ある森林植物群,あるいは他の植物群落の罹病状態の探求に当たつて,植物流行病型を決定することは,これらの研究をきわめて容易にすることができると思う。ある特徴をもつた場所の流行病型をもとにして,異なるいろいろな地域の植物病害についてもさらに深く研究をすすめることができるからである。
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