【緒言】
近年、脊髄性筋萎縮症 (spinal muscular atrophy:以下SMA)は薬剤治療が可能となり、特に乳児型の運動機能を大きく改善させる。そのため、理学療法は運動機能の促進を目的に介入する必要がある。しかし、実臨床におけるアウトカムや
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は明らかになっていない。本研究は、薬剤治療後の運動機能の変化について調べた。
【方法】
対象は、薬剤治療を開始・または実施後2年以上経過し、当院で運動機能評価を年に1度以上実施しているSMA患児16名である。運動機能評価はChildren’s Hospital of Philadelphia Infant Test of Neuromuscular Disorders (CHOP INTEND)、 Hammersmith Functional Motor Scale Expanded (HFMSE)、 Hammersmith Infant Neurological Examination Section2、 WHO Motor Milestones、Motor milestone levelsを用い、この中から、Head controlからWalkingまでの12項目 (結果に示 す)を
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とした。
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の獲得の有無で、 ①治療開始時期、②CHOP INTENDとHFMSEを初回 (治療前もしくは当院初診)/1/2/3年後で比較した。それから③
SMN2 コピー数 (2/3コピー)で
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の獲得率を比較した。
【結果】
対象の年齢は3歳0か月 15歳3か月 (5歳4か月)〔最小‐最大 (中央値):以下同様に示す〕、Ⅰ型15名、Ⅱ型1名、 SMN2 コピー数は2/3コピー7/9名、治療開始はⅠ型が0-116 (10.5)か 月、Ⅱ型が26か月、観察期間は2年1か月‐7年2か月 (4年1か 月)、治療薬剤はヌシネルセン8名、オナセムノゲンアベパルボベク2名、ヌシネルセン後オナセムノゲンアベパルボベク6名であった。
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獲得有/無は13/3名、①治療開始月齢は、有で0‐29(8)か月、無で17‐117 (63)か月であった。②
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獲得有のCHOP INTENDは、初回/1/2/3年後が38/51/56/57点 (中央値:以下同様に示す)で、1年後以降は 50点を超えた。無は、7/17/24/30点であった。
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獲得有のHFMSEは、初回/1/2/3年後が3.5/12/13/19.5点と上昇を示し、無は、0点で変化がなかった。③
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の獲得率 (%) (2/3コピー)は、高い順にHead control(100/100)、Rolling(100/100)、Sitting(80/100)、 Pivot sitting (60/88)、Sit to lying (60/88)、Shuffling (60/75)、その後2コピーはStanding with assistance(60)、Lying to sit(40)、3コピーはLying to sit(75)、Crawling(63)、Standing with assistance(38)、 Hands-and-knees crawling(38) 、 Standing(13) 、Walking(13)であった。
【考察】
今回、薬剤治療後のSMA患児が新たな
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を獲得する可能性を示した。その
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は定型発達とは異なる SMAの特殊性を示すこと、獲得順序が
SMN2 のコピー数により異なること、CHOP INTENDが50点以上で
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が獲得される可能性あることが示唆された。一方、CHOP INTENDが40点未満では
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の獲得には至らず、先行研究と一致している。しかし、薬剤治療により、年々スコア の上昇を認め、四肢・頭部・体幹の自発運動の向上が示された。
【倫理的配慮】
【倫理的配慮・説明と同意】
本研究は獨協医科大学埼玉医療センター臨床研究倫理審査委員会の承諾を得て行い、保護者に書面を用いて研究内容と方法を説明した (研究番号20140)。
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