我が国において企業及び企業病院に所属している理学療法士数は,極めて少なく,産業保健領域という新しい領域での理学療法士の専門性発揮に可能性は感じているものの,踏み込める状況にないのが現状である。私は,2019年に参加する機会を頂いた世界理学療法士連盟総会(於;スイス・ジュネーブ)の第1回サブグループ会議で,我が国における産業保健領域への挑戦・展望の1つとして『高齢労働社会への貢献』があり,定年後の再雇用者の身体的特性と職場とのマッチング(身体的特性に職場を適応させる)に理学療法士が関わり,日本の労働人口を支える考えを持ち合わせていることを発信した。
私が所属するM社は,段階的に定年延長制度の導入が予定されている企業であり,現在は60歳が定年年齢であるが,今後,60歳以降も継続的に働ける職場づくりに向け,「健康で長く働ける工程の実現」に共創しだしている。現状では,全社的な共創ではなく,特定の部署との共創であるが,定年が自分事化となる50歳以上の労働者を対象に,「体の自己チェック方法および自己管理方法」の動画を作成・提供し,該部署の控室で流していただく運用を実践している。独自の案であるが,理学療法士から発信できた取り組みとして,効果とともに会社内で水変展開されることを期待している。
また共創の最終的目標を,身体的特性からの適切な職場選択・配置基準の数値化および作成・展開としていることから,この目標に理学療法士の専門性が活かされ,関与できることを嬉しく感じている。具体的には,1)工場の作業における負荷の可視化,2)体への過負荷要因の分析と回避,3)過負荷にならない動作設定,4)負荷軽減(予防)のためのツール使用・器具選定,5)健康管理,と長年培われてきた会社内の経験値を数値化・可視化することから取り組んでおり,次世代に渡り「健康で長く働ける工程」の実現を目指している。
本格化するのはこれからの活動であるが,今回紹介する内容が,理学療法士の「高齢労働社会との向き合い方」の一助になれば幸いである。
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