本文では最近進歩が著しい新しい溶接技術による構造物の信頼性向上ではなく,溶接構造物の信頼性にどのような特有の問題があるかを論じた.非定常,過渡現象,相変態等の溶接の特殊性をまず説明し,続いて日米の溶接規格を比較した.信頼性向上のためには構造単位での規格設定が望まれ,このようなコンカレントエンジニアリング(CE)的アプローチは生産性向上だけでなく,信頼性向上に大きく貢献することを指摘した.さらに溶接では変形予測がきわめてむずかしいが,変形制御にも関係する冶具設計は現状では個別対応なのでその体系化が望まれると指摘した.また巨大構造物の建造では不可欠な現地施工や作業者の問題を紹介した.溶接構造物は一体品,連続体であるために部品交換による修理ができない.そのため非破壊検査,補修が重要であるが,補修作業はきわめて高度な知識,経験と適切な判断が必要である.また非破壊検査も全体を見て異常を検出する家庭医的な方法の開発が望まれること,最後に将来への展開として分野(業界)を超えてCE的アプローチを適用すればよりロバスト性が確保できると期待されることを述べた.
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