世界の医療業界では,先進諸国における医療費の抑制,患者への医療サービス価値の提供方法の模索,新しいマネジドケア企業の登場など,大きな変化が起こりつつある。製薬企業の間では,世界レベルで大企業の合併が盛んに行われた1980年代末の波の後,1990年代半ばになって,また買収・合併・提携が活発化しており,業界の再編がより大きなレベルで加速度的に起こりつつある。
一方では,遺伝子の研究を専門とするバイオ・ベンチャー,研究開発プロセスの効率化を図るシステムなどに特化したサービス企業,疾病と治療のデータベースを持つ企業の出現など,従来のいわゆる大製薬企業以外の新しい型の企業の成長も著しい。
本研究では,製薬業界のグローバル度をマーケット,コスト,政府規制,競合の要因から分析した後,製薬企業のグローバル戦略のポジショニングのオプションと,業務を組み合わせるバリューチェーンの整合性について,概観する。それから製薬業界における合併や買収を1980年代,1990年代半ば,1998年の3つの時期に分けて説明し,その中で主役をつとめているスミスクライン・ビーチャム社の活動を詳細に説明する。
1989年,1990年代半ば,1998年の3つの時期におけるスミスクライン・ビーチャム社の合併活動を分析し,グローバル戦略ポジショニングと合併活動の整合性,合併から生じるバリューチェーンの統合のレベルの違い,統合を定着する上での鍵となる経営システムなど組織のソフトな側面への働きかけの重要性を明らかにする。最後に合併活動をグローバル戦略の一手段として用いる上での,日本企業への教訓を提示する。
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