市売依存地域における国産材製材素材流通の変化を明らかにするため,大分県日田地域に所在する新生産システム参加製材工場6社の素材仕入を分析した。分析の結果,当該6工場では,引き続き市場調達を主体としながらも,その中にFax入札や協定取引といった従来の立会入札とは異なる仕入方法を導入し始めていることが明らかになった。このような変化は,工場側の次のような素材仕入行動と結びついて展開していた。すなわち,工場側は,立会入札の当用買いとしての利便性を引き続き重視する一方,素材仕入圏の広域化にともなう調達コストの上昇を抑えるため,立会入札よりも簡便かつ安定的に量と価格を決定できる仕入方法を求めるようになっていた。また,工場側は,戦略的に生産ラインを専門化・汎用化する一方,生産ラインの生産効率向上のために立会入札用とは異なる自社工場向けの特別な選別を求めることがあり,それに対応可能な仕入先とのパイプを太くしていた。近年,製材業の寡占化が進行する中,こうした工場側の新たな仕入要求に柔軟に対応できる素材市場が出現しつつあることが素材流通の多様化を促進しているものと考えられる。
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