カリフォルニア州では入植当初から大土地所有が卓越した。サンホワキンバレー南部では大土地所有の土地利用の一形態として羊の放牧業が行われた。その羊飼いとして重要な役割を果たしたのがピレネー山地西部を故郷とするバスク人であった。シエラネバダ山脈を越える大回遊移牧はなくなったが,片道400マイルを超えるような羊の長距離移牧は現在まで続いている。本稿はカリフォルニア州の最大の牧羊地であるカーン郡を対象にして長距離移牧の実態を現地調査によって解明したものである。その結果,盆地床のアルファルファ畑放牧,丘陵地の自然草地,モハーベ砂漠,山地放牧という循環的な長距離移牧は,バスク系牧羊業者によって継続されていることが判明した。しかし,カーン郡では羊数や放牧業者数は環境保全のための放牧地制限,牧牛業への転換,後継者の不足等により減少してきた。しかも,過酷な労働を要する羊飼いはバスク系から1970年代にペルー人などのヒスパニックに変わった。
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