動物の捕食行動は多様であり、その多様性は周囲の環境や被食者の特性に対する適応として考えられている。本研究では、
ヤゴ
の捕食行動で観察された、“被食者の形態に依存した攻撃姿勢の左右規則性”を紹介する。
ルリボシヤンマ幼虫(
ヤゴ
)にとって、エゾアカガエル幼生(オタマ)は主要な被食者の一つである。
ヤゴ
は捕食の際に、被食者に対し口器を伸長させ、左右水平方向に稼動する口器の先端を用い、被食者の体を挟むようにして捕らえる。オタマは頭胴部が紡錘形、尾部が偏平な構造という形態を有するため、
ヤゴ
はオタマの特徴的な形態に適応した攻撃様式を持つことが期待される。そこで、
ヤゴ
に対し麻酔したオタマを四方向(正面、後背面、左側面、右側面)から対峙させ、攻撃様式を観察した。結果、左右側面方向から対峙させた時に、
ヤゴ
は頭部をかしげながらオタマを捕らえていた(以下:首かしげ行動)。その際、オタマの方向に対する
ヤゴ
の頭部をかしげる方向に規則性が存在し、
ヤゴ
にオタマの右側面を対峙させた場合、
ヤゴ
は左に頭部をかしげ、オタマの左側面を対峙させた場合、右に頭部をかしげ、攻撃することがわかった。この首かしげ行動の左右規則性がオタマの形態的特徴に依存した行動かどうか調べるために、オタマに比べ全体的に扁平な形態をしている魚類(モツゴ)を用いて、同様の実験を行った。結果、モツゴに対しても左右側面方向からの攻撃の際には首かしげ行動が観察されたが、首かしげ行動の左右規則性は観察されなかった。
以上の結果は、被食者の形態と
ヤゴ
の口器形態から理解できると考えられる。オタマの形態的特徴を
ヤゴ
が認知し、それに応じて攻撃姿勢を決定していることを示唆する。
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