本報では比較的普及度の高いHPLCを利用したドリンク剤中のカフェインの定量実験をとりあげ, 女子大の生活科学における実習課題としての可能性を検討した。本法の特徴および問題点は凡そ以下のようである。(1)前処理法としてのエキストレルートカラム抽出は分液ロートを用いる通常の液-液抽出法に比較して, 簡便で効率がよい。マニュアルどおりに操作すれば個人差が少ない優れた抽出法で, 抽出誤差を減らすことができる。(2)シリカゲルカラムを用いる順相HPLC法は公定書などに採用されている逆相HPLC法と比べて, 経費や保守, 操作性, 分析時間などの点で優れている。(3)本報では検量線の作成に当たり内部標準物質(IS)を用いるIS法を採用した。検量線の説明に当たっては絶対検量法の方が理解されやすいが, HPLCへの試料注入量に由来する誤差に配慮しなくてよい点と, HPLC実習が数日にまたがる場合の検量線作成の手間が省けることを考慮すると, 学生実習にはIS法が適している。(4)HPLCの所要時間は1試料当たり約15分であるが, TLCと異なり同時並行的な実験ができないため, 多数の試料を処理するには時間がかかる。そこで学生実習の現在では初めの1∿2班のHPLC測定を学生自身の手で行わせ, 残りは教師側で行うか, あるいは時間外に測定させる等の工夫が必要である。それにより講義を含めて90分間の実習時間3回の枠で実施可能である。(5)エキストレルートカラム, ホールピペット, メスフラスコなど実験器具の装備や溶媒の使用量に制約がない場合は, 試料の採取量を参考文献のように5mlとするとドリンク剤液の採取誤差によるバラツキが少なくなる。(6)学生実習で得られたカフェインの定量値(%)に幅があるが, これは製品中のカフェイン含有量の問題ではなく, ほとんどの場合は学生たちの実験技術に由来する誤差であることを注意する必要があろう。この実験を試行した際, ドリンク剤をホールピペットで吸い上げた学生の中には, 黄緑色の螢光を発する内容液を初めて直視した者も多く, 驚きや不快感を抱く等, 予想外のインパクトを与えた。本題は単に化学的な興味を触発するばかりでなく, 医薬品への関心を高める効果も期待できる格好な実験課題として推奨したい。
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