Sodium cephalothin (以下, CETと略す) の腹腔内投与の安全性に関しては, 既報1) において, 通常, 腹腔内投与に用いられている他の抗生物質との比較による基礎実験の成績を報告し, CETは他剤にくらべて局所刺激性の少ない薬剤であること, またその臨床使用における投与濃度は, 10%程度の溶液であれば安全と考えられ, さらに5%程度の溶液として用いるならば, 浸透圧の点からも生理的であると考えられることを明らかにした。
今回の実験は, CETの腹腔内投与が適応される実際の臨床状態を考慮し,さらに苛酷な条件下での腹膜および腹腔内臓器に対するCETの刺激性, 特に臨床使用上問題となる腹膜癒着について動物を用いて詳しく検討した。
既報のCETの刺激性試験1) においては, CET溶液の投与の際に開腹操作を加えず, ツベルクリン針による腹腔内注入をおこなつた。その理由は, 開腹操作そのものによる影響を除外して真のCETの作用をみるためと, 閉腹縫合後の突発的な注入薬液の漏出を防止するためであつた。しかし, 臨床におけるCETの腹腔内投与は手術時に用いられることが多く2~6), 腹膜および腹腔内臓器は長時間開放されており, また血液あるいは消化管内容物や細菌などで汚染された状態にある。このような条件を考慮した結果, まず実験1として, 開腹放置後の腹膜に対するCET溶液の刺激性について検討し, さらに, 実験2として開腹放置に加えて, 刺激性の強い
ヨードチンキ
の摩擦塗布によつて, 軽度の腹膜癒着を惹起させた状態でのCET溶液の刺激性について検討した。
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