戦前日本の音楽界ではドイツ音楽中心主義が強かったが、第一次世界大戦後には西洋音楽の普及が進み、近代フランス音楽に目を向ける人たちも増えていった。本稿では、ドイツ派とフランス派の対立がもっとも際立っていたピアノの分野を中心に、フランス派と目されていた人々が日本の音楽界に何をもたらし、かつ当時の人たちからどのようなイメージで見られてい たのかを考察した。フランスに留学したピアニストは、近代フランス音楽をレパートリーに組み入れ、音の美しさや音色の色彩的表現の豊かさ、繊細な弱音などフランス・ピアニズムを日本のピアノ界に持ち込んだ。フランス派の中にも、野辺地瓜丸(勝久) や宅孝二、原智恵子らコルトーの影響を強く受けた人たちと、新即物主義に近い新しい解釈を示した草間(安川)加寿子の二つの傾向があった。戦前における彼らの実演は、日本で近代フランス・ピアノ音楽が戦後急激に広まることを可能にしたと思われる。
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