【目的】
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語で「hjaelpmedel(イェルプメーデル)」と呼ばれ、補助器具と邦訳されている道具類は、
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において恒久的な機能障害を抱えつつ暮らしている人を支えるための環境的支援において中核をなすものである。この補助器具は、日本における福祉用具に相当するものといえるが、その種類や量、さらには活用する仕組みにおいて、日本の福祉用具におけるそれよりも大いに先んじており、日本における福祉用具制度のあり方とは似て非なるものとも言われている。その根拠は、
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における補助器具の開発から提供までの総合的なシステムが、公的な責任に基づいたより公共性の高い、かつ中身の充実したものであることに存する。そこで今回、
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における補助器具の総合的なシステムのあり方について、現地調査および文献により明らかにし、考察を加えたので報告する。
【方法】2000年から2008年にかけて、以下に掲げる方法で情報を収集した。1.
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国内における複数の補助器具センター(
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語でhjaelpmedelscentralもしくはhjaelpmedelscentrumなどと表記される)を訪問し、取り扱っている補助器具について調べるとともに、そこで勤務する専門職員に対して、それらの運用方法について直接聴取した。2.補助器具を使用している複数の人の自宅を訪問し、処方されている補助器具の内容や自己負担額などについて直接聴取した。3.補助器具の開発から啓蒙、さらには提供のシステムに関する文献を収集した。
【説明と同意】補助器具センターの職員および補助器具の利用者に対して研究の内容を説明したうえで、聴取した内容および撮影した画像を学会等で発表する旨の同意を得た。
【結果】1.機能障害を持つ人に補助器具を提供することは自治体(日本の県に相当する
ランスティング
と市町村に相当するコミューン)の責任であることが、枠組み法である「保健医療法(HSL)」のなかに明記され、さらにそれに基づく細則が国および自治体において定められていた。2.補助器具は「日常生活を送るためのもの」と「ケアと治療のためのもの」に大別され、補助器具センターには、使用者の様々なニーズに応えるべく、実に豊富な種類と量の補助器具を揃えてあった。それらは基本的に無料もしくは極安価でレンタルされ、処方を担当する専門家によって必要であると判定されれば、使用者に提供される数に制限はなかった。3.公的責任に基づいて運営されている補助器具センターが全土に47箇所あり(2009年10月末現在)、それらが補助器具のレンタルにおける実質的な基地となっていた。4.国と自治体から拠出された資金によって運営されている国家的な研究センター「補助器具研究所(HI)」が、新しい補助器具の開発と全国的な啓蒙・普及に関して非常に重要な役割を果たしていた。
【考察】
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における補助器具処方の特徴は、「使用者のニーズありき」の原則が息づいていることである。即ち、使用者自身が処方のプロセスに参加して影響力を行使することが基本に置かれ、処方の決定には使用者自身の機能障害や必要性に関して本人がもつ経験や知識が保障されるように配慮されていて、必要な補助器具を使用することに対する権利意識が非常に高いと感じた。また、
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における機能障害者に対する補助器具の供給システムの遂行は、保健医療法(HSL)という法律において自治体の責任であることを明確にしたうえで、基本的には税金を財源として総合的に運営される国家的な大型プロジェクトと言っても過言ではない位置付けにあることも明らかとなった。今後は、最新の取り組みや制度についてさらに研究を深めつつ、日本の福祉用具制度との比較も取り上げていきたい。
【理学療法学研究としての意義】
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における補助器具制度に関する研究は、未だ問題点の多い本邦における福祉用具制度を見直すうえで大いに役立つと同時に、理学療法学の研究領域である生活環境支援系分野の発展にも寄与すると考える。
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