日本人の平均寿命1) の長さが男女とも世界のトップクラスにある今日, 呼吸器疾患の罹病者の年令分布も高令者に多い傾向を示していることは, 私共の日常の診療活動を通して実感していることである。産業活動の興隆に伴う工場の排煙, 増加する自動車の排気ガス等の大気汚染2) は, 規制がなされているとは言え高令者の肺を襲い, 肺に障害を与えていることも否定できない。特に喫煙者は長期にわたる喫煙の結果による肺のコンプライアンスの低下にかかる障害因子が加わり, 気道の過分泌をきたし, 細菌感染の好適の場となつている。それ故呼吸器感染症, 特に慢性呼吸器感染症の増加をもたらしている。又腎機能, 肝機能などが生理的にも低下している高令者の場合, 抗生物質の全身投与に際してはその投与量を適宜調節して用いねばならない。従つて投与量を減らせると言うことと, それによる他臓器に対する影響を軽減し得ると言う2つの意味でも抗生物質の局所投与は, 特に高令者にとつて意義のあることと思われる。
私共は抗生物質の吸入療法の基礎となる肺における抗生物質の吸収に関する研究3) を行い, 重要な発見をし報告した。すなわち, アミノ配糖体剤が経気管支的に肺内に投与された場合, その吸収の場は主として肺胞にあること, ペニシリン剤, セファロスポリン剤の吸収の場は主として気管支にあると言う事実の発見である。更に, 抗生物質の全身投与時の肺における分泌部位が, 吸収部位と一致するとの仮説が成立すれば, 説明しやすい事実が多いと言うことの指摘である。従つて, このことから呼吸器感染症にアミノ配糖体剤を全身投与で用いる場合, 起炎菌の因子を度外視して考えれば, 肺炎がその第1の適応となり, 気道感染症に対してはβ-ラクタム剤に併用して用いる以外, 単独ではほとんど用い得ないと考えられる。アミノ配糖体剤を気道感染症に対して用いる場合には局所療法, すなわち一般にはネブライザー吸入療法を行うことが最も理にかなつた用い方と言えよう。
Streptomycinに始まつたアミノ配糖体剤の歴史は, Gentamicin (GM) で抗菌スペクトラムが広く, 強い抗菌力を有するようになり, その後次々に新しい優れた薬剤が発見されてきた。私共はその中の1つであるDibekacin (DKB) を用いて, 上記の事由により超音波ネブライザーによる吸入療法に関する研究を行つた。
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