はじめに中国内モンゴル自治区の東南部に位置するホルチン砂地は日本から一番近い砂地であるが、ホルチン地域の砂漠化に関する研究は数多い。例えば、大黒・根本(1997)は過放牧による砂漠化が問題となっているホルチン地域の奈曼旗を事例として検討し、放牧管理による植生・土壌の回復は砂丘中上部では20年程度の期間が要することを指摘した。立入・武内(1998)では旧日本軍が作成した1930年代の地形図と中国科学院が作成した1980年代の砂漠化類型図を比べた結果、ホルチン地域の奈曼旗では約1.8倍の流動砂丘の拡大が見られたとした。衛星データによる砂漠化をモニタリングした厳・宮坂(2004)では、1961年のCORONA画像と1988、1994、2000年のTMデータを用いて土地被覆分類図を作成し、この間に砂漠化が一貫して進行したとした。
しかし、これらの研究はホルチン地域の一部の対象とした研究であり、ホルチン全域を対象とした研究は少ない。本研究の目的は多時期のランドサットデータおよび統計年鑑データを用いてホルチン地域の土地利用変遷を明らかにすることである。
対象地域 本研究でのホルチン地域は内モンゴル自治区に含まれる領域を対象とする。対象地域は赤峰市の五つの県、通遼市の八つの県及び興安盟の二つの県の合計15個の県から構成される。概ね東経117°45′~123°40′、北緯41°30′~46°10′の範囲に位置し、面積は約12.5万㎢である。
使用データ・ランドサットデータ TM、ETM+、OLI
本研究では1985年のランドサット5号TM、2000年の
ランドサット
7
号
ETM+、2014年のランドサット8号OLIの三時期のデータを用いて土地被覆の解析を行った。
・内蒙古統計年鑑(1987年~2012年)
ホルチン地域における耕地面積、灌漑面積、大型家畜、小型家畜などを統計年鑑からデジタル化し、時空間変動について検討した。
・世界気象資料 (2003年~2012年)
ホルチン地域に位置する三つの気象観測地点の月平均気温、月降水量を用いて、ホルチン地域の気温と降水量の変動を解析した。
手法三時期のランドサット画像の分類により土地被覆分類図を作成、また内蒙古統計年鑑から統計データをデジタル化してグラフ化、主題図してホルチン地域の土地利用変遷を明らかにした。
まとめ統計年鑑データからは耕地面積が1986年から2011年まで増減を繰り返しながら増加傾向であることがわかった。一番明瞭な増加は1996年頃の増加である、それは米袋省長責任制によるものと考えられる。また、2000年から2003年までに減少傾向が見られ、退耕還林還草政策の影響が考えられる。ランドサット画像解析結果からも耕地面積が1985年から2000年、2014年にかけて増加傾向であった。統計年鑑による解析結果と画像解析の結果は一致した。
画像解析の結果からは、ホルチン地域における砂漠化面積が1985年から2000年にかけて大きな増加が見られた。しかし、2000年以降は退耕還林政策が取られているにも関わらず砂漠化地域の減少が見られず、小さな増加であった。
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