洗髪における「安楽」は対象の主観的な側面が大きく,ケアを実施した後の評価として用いられており,最近になって僧帽筋の硬度測定値等から「安楽」を客観的に判断する試みがなされてきた.一方,安楽な援助技術の提供を考えると「安楽」の評価指標は,生活援助技術の展開中にケアを瞬時に修正でき,対象者をより「安楽」の方向に導くことができる指標が求められる.そこで,本研究は,洗髪実施中に測定機器を使用せずに,施術者の感覚で瞬時に評価できる「安楽」の指標作成を目的とした.18歳から21歳の健康な学生22名の被験者を対象に,椅子座位で洗髪を実施した.洗髪時に,頸部にタオルあるいは,頚部保護パットを挿入するか,後頭部に腰掛台を置き,頭部を安定させて,胸鎖乳突筋の筋硬度の差異を検討した.洗髪は手技を統一するため同一者が行った.胸鎖乳突筋の筋硬度値は洗髪前後では,どの群においても変化が見られなかったが,洗髪中の筋硬度値(中央値)は,腰掛台使用群44,タオル使用群49,頚部保護パッド使用群52であった.洗髪中の筋硬度は腰掛台使用群の方が頚部保護パット使用群に比べ有意に低かった.質問紙法で調べてみると,腰掛台使用群の方が頚部保護パット使用群よりも頭部の不安定感を感じなかった.看護実習で使用する枕の硬度を硬度計で測定してみると,小枕中央を押したときの硬度値は,49以下でこれを"柔らかく触れる"とし,中枕中央を押したときの硬度値は50〜54で,これを"張ったようなやや硬い"とし,大枕中央を押したときの硬度値は55以上になり,これを"硬く触れる"と表現し,胸鎖乳突筋の硬度指標に使用することを提案する.本研究の結果から,胸鎖乳突筋が小枕中央を押したときよりも"柔らかく触れる"ときは頭部の安定感はあるが,中枕中央を押した"張ったようなやや硬い"ときは頭部の安定感は得られず安楽さを失うのではないかと考えられる.
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