本論では,bogolan(ボゴラン)と呼ばれる伝統的染色技法を用いて創作をおこなったマリ人アーティスト集団カソバネ(Groupe Bogolan Kasobane)の実践を,かれらの生きた社会的コンテキストに位置づけながら説明する。それによって,同時代のアフリカン・アート,アフリカン・アーティストと社会の関係性のひとつの在り方を明らかにすることを試みる。
カソバネの実践の特徴として,(1) 伝統的な技法,テーマの「アート」への流用と近代西洋的技法とのミックス,(2) 伝統的な技法の調査,習得,収集,(3) 集団性の重視,(4) 同時代の社会状況への言及,(5) 自己の実践への再帰的言及,が挙げられる。かれらは内的な創作意欲だけでなく,ネグリチュードや同時代のアートの潮流,独立後の国家建設においてアーティストに求められた社会的役割,経済的制約までをも取り込みながら,このような特徴をもつ独自の「ボゴラン・アート」を構築していった。さらにかれらの活動は,1990年代以降の「ボゴラン・リバイバル」へとつながっていき,今日では,ボゴランはマリの人びとに「マリの布」「マリの文化」とも形容され,ナショナルなシンボルのひとつとして認知されている。ここに,アーティストとかれらが生きる社会との呼応関係を見出すことができるのではないだろうか。
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