流域治水の効果を高めるには氾濫域での対策が重要となる.氾濫域の多様なステークホルダーとの合意形成のためにも,防災力の強化と地域の魅力づくりを両立する計画が不可欠である.本稿では,優れた流域治水事例としてオーストリアのマッハラントダムプロジェクトに注目し,治水・都市施策融合型の流域治水の計画,設計,運営,管理に関する知見を提示する.7つの自治体の協働によるドナウ川沿川の約54km区間のプロジェクト詳細を明らかにした上で,大きな特徴として,可搬式堤防や輪中堤,個別建物防御や集落移転といったまちの特性に応じた洪水防御対策,コミュニティや生業を維持しながら大規模な遊水エリアを確保する集落移転,地域の魅力を高める柔軟な土地利用の3点を指摘し,市町村が主体的に計画に関われる仕組みを含め,我が国の流域治水に関わる政策の推進・実践に向けた留意事項を指摘した.
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