1920年代はドイツにおいて,労働者と中間層との間の賃金格差の平準化が顕著にみられた時代である。労働者の賃金水準の上昇率は官吏や職員層のそれを上回り,労働者の内部では非熟練労働者の賃金水準が熟練労働者のそれに接近した。しかし,労働者の新築団地への入居の可能性に着目すると,中層・下層の労働者は入居できなかった,という見方が先行研究ではなされている。これに対し本稿では,1920年代に労働者が新築団地に少数派ながら入居し始め,中間層と同様の住宅文化を享受した点を明らかにし,それを可能にした要因を,ゾーリングン市の新築団地・
ヴェーガ
ーホーフ団地を事例に分析した。同団地で低所得者が入居できた要因は,一方では家賃の低さに,他方では世帯主以外の世帯成員の就業にあった。つまり,中間層的な性格を持つ熟練工の主要世帯形態が若い夫婦の核家族だった一方で,労働者家族においては,職に就いている息子がその世帯に残っていることが少なくなかった。労働者の新築借家入居が実質上不可能だった第一次大戦以前と比較すれば,1920年代は住宅消費における階層間格差平準化の開始期だったといえる。
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