社会のあり方をめぐっては,かつては資本主義か社会主義かというイデオロ
ギー対立があった.今日,その意義は失われているが,代わりに,いわゆる「大
きな政府か小さな政府か」というイデオロギー対立が出現している.一方の極
にあるのは新自由主義で,市場システムの効率性を前提に,社会保障など政府
の経済への介入はできるだけ少ない方が望ましいと考える.他方の極には,福
祉の理念的価値を重視するあまりに,福祉サービスや支援を提供することに伴
う資源条件や制度的しくみへの考察を「不純」なこととして排除する福祉絶対
主義がある.この立場は,脱生産主義といった考え方やワークフェアへの短絡
的な批判などに現れている.
新自由主義は,じつは経済理論としても間違っているのだが,経済学者の間
では正しいものと信じこまれていて,マスメディアでのプレゼンスは高い.他
方,福祉絶対主義は資源条件と制度的しくみを無視する点においてやはり空論
的である.また,ここまで極端ではなくても,福祉価値を重視する社会福祉論
には財源問題への答えを用意しない「マナ型福祉論」が多く,それは新自由主
義と対抗する上で説得力に欠ける.それらに代わって,社会保障および社会福
祉の制度をめぐる議論は,市民的共同性をめざすという福祉の理念的価値を重
視すると同時に,その経験的な実現可能性も重視するという二つの条件を満た
すべきである.これはコモンズ型の福祉論として展開されることになる.
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