従来の研究では、言語表現が担う多様な社会的意味に言及する様々な術語が、それ自体の意味に関する十分な吟味なしに用いられてきた。本稿では、先行研究において頻繁に用いられてきた重要概念の一つである「改まり」を取り上げ、その意味に関する明示的な記述を提示することで、同術語を用いる研究上の記述の厳密化を図るとともに、言語表現の社会的意味の記述に用いられる諸術語を的確に理解するための理論的方向性を示すことを試みた。「改まり」を、記号がコンテクストを指し示すことによって生じる指標的意味 (indexical meaning) として捉えるという記号論的視点に基づき、コーパスを使用した連語関係の調査および、「改まり」という語を刺激テーマとした連想実験から得られたデータを分析・考察し、「改まり」とは「出来事がそのコンテクストを、制度的かつ明確な目的に基づいて成立する場面として指標するときに生じる意味である」という記述を導いた。この記述が、極めて多岐にわたる「改まり」という語の外延と、「改まり」に関連する様々な物事を一貫して説明できるものであることを示し、それが同術語を用いた研究上の記述とその理解の厳密化に役立ち得ることを論じた。また、言語の社会的意味の記述に用いられる諸術語を理解する上で、指標性の概念および記号論の枠組みが持つ有効性を主張した。
抄録全体を表示