条件付不安定な大気内に,垂直シアーの風下側に上昇気流,風上側に
下降気流
をもつ対流雲系が存在していると仮定して,垂直シアーをもつ風が対流雲系におよぼす効果を,力学熱力学方程式の数値積分により調べた。方程式系には水滴の生成蒸発落下が考慮されている。
初期垂直シアーの強さのみ異なる2例の計算の結果,次の事が分った。より強い垂直シアーを与えられたB例では,より弱い垂直シアーを与えられたA例よりも,雨滴がより広い領域でより激しく蒸発し,その蒸発により空気の冷却も大気全体としてより著しい。しかし,B例では,蒸発による冷却が
下降気流
の中心部に集中しないため,
下降気流
がA例ほど発達していない。B例のあまり強くない
下降気流
の流線は,強い垂直シアーによってA例よりも傾けられる。その結果,地上附近における
下降気流
からの冷い発散流が下層の温い空気におよぼす寒冷前線的効果は弱まる。更に,強い垂直シアーは上昇流の発達をも妨げる。強い垂直シアーが対流雲系(その上昇気流,
下降気流
のいずれも)の発達を抑えることは,エネルギー変換の立場からも明らかにされる。
著者の前の論文(1965)で分った事を考慮すると,これらの結果から次の結論を下すことが出来る。即ち,風の垂直シアーは対流雲系そのものを強めるのではなく,対流系を維持し,それを伝播させることによって対流不安定エネルギーの解消を組織化する。対流雲系の維持に役立つ垂直シアーには"丁度良い強さ"があって,それは対流系の発達程度によると考えられる。
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