受験勉強の枠を超えて,数学教育上の意義を認められていた受験数学参考書がかつてあった。それが岩切晴二著の『代数学精義』である。旧制第六高等学校の数学教授であった岩切晴二は,分厚い演習型参考書の形式を確立した。教員のいない参考書上でも演習が成立するように,例題の配列と,例題と練習問題の密接な連携に工夫をこらした。また,割り算における0の吟味を厳密に行い,受験参考書の数学的厳密性のレベルアップを図った。岩切は,高等教育機関で行われていた数学演習と0の吟味を受験数学に対して適用させたのである。『代数学精義』の数学教育的意義について,先行して出版されていた藤森良蔵の受験数学参考書と比較して論じる。
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