【目的】
諸家の研究によると入院早期、移乗動作時、ベッドサイドなどで転倒・転落が多いと報告されている。当院でも平成14年から1年半の調査で同様の結果が得られた。中でも注目したのは、入院後2週目までに転倒が多数を占めていたことである。入院早期の患者は、頚部の可動性が少ないと感じていたので、頚部に着目した介入を行いその効果を検証することを本研究の目的とした。
【方法】
対象は、平成17年5月1日~9月30日までに当院へ入院してきた患者の内、入院日から2週間以内、日常生活自立度B、明らかな頚椎疾患がなく指示が理解可能で研究に同意の得られた者22名(平均年齢78.8歳)とした。コイン投げにより介入群11名と対照群11名の2群に無作為に分類した。介入方法は、介入群では、入院日から2週間目まで通常の理学療法プログラムに加えて、足底をつけないベッド上端座位でバランス反応を利用した頚部自動関節運動(以下、頚部AROM-ex)を行い、その後、ベッド車椅子間の移乗動作訓練を行った。対照群は通常の理学療法プログラムのみとした。評価項目は、(1)頚部AROM、(2)肩AROM、(3)移乗動作能力(FIM採点基準)、(4)転倒数、(5)転倒件数とし、入院日に初期評価を行い2週間後に再評価を行った。また、検者間の誤差をなくすために検者は一人とした。
【結果】
頚部の可動域は、介入群と対照群の変化率の比較では、どの項目も有意な差が見られなかった。しかし、介入群は、左回旋、左側屈以外の項目では、全て増加傾向にあり、対照群では伸展のみの増加であった。肩の可動域は、介入群と対照群の変化率の比較では、どの項目も有意な差が見られなかった。しかし、すべての項目で介入群は増加し、対照群では減少傾向にあった。FIMの採点基準による移乗動作の変化点は、介入群と対照群の比較で有意な差が認められた。転倒者数では介入群2名、対照群7名、転倒件数では介入群2件、対照群11件となり、介入群と対照群の比較では、有意な差が認められた。
【考察】
今回の結果では、介入群は、対照群に比べ転倒者・転倒件数が少なかった。これは、入院早期からの頚部に着目した介入が、転倒の起こりやすい入院早期の転倒予防になることを示唆しており、患者自身の能力面からのアプローチをする必要性を確認するものとなった。わずか2週間の期間でも集中的にアプローチすることで、頚部自動関節可動域は増加傾向にあり、それにより視覚情報の増大、力学的なバランス反応の拡大、さらには直接的に肩関節にアプローチしなくても頚部を動かすことで肩周囲の筋緊張が調節され肩関節の可動域も増加し、結果的に上肢の機能までも高め、より安定した移乗動作を早期から学習できたのではないかと考えられた。
【まとめ】
入院早期からの頚部に着目した介入は、入院早期の転倒予防になることが示唆された。
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