1.はじめに 近年,地域活性化を図る方法としてアニメの活用が注目されている.2008年8月筆者が発起人となって,埼玉県
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(旧:栗橋町)において株式会社トミーテックが展開している鉄道むすめ栗橋みなみを活用した地域振興事業を発案した.また,アニメ「らき☆すた」を活用した地域振興事業では主要メンバーのひとりとして携わった(図).埼玉県
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(旧:鷲宮町)はアニメ聖地巡礼の先駆けとして知られ,山村(2008)がファンの旅行行動に関する研究を行っているが,アニメ作品とのコラボレーション商品の開発過程やアニメ聖地における新たなビジネスの展開方法に関しては,まだ明らかになっていない.本研究は,アニメ聖地で新たなコラボレーション商品やビジネスが生まれるプロセスを埼玉県
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を事例に主体に焦点をあてて明らかにすることを目的とする(Markusen, 2003).
2.研究方法 本研究では,中村(2008)が整理したアクションリサーチの6つの研究者ポジションのうちの,内部者(研究者が自分自身/自分の実践を研究する)の方法によって研究を行った.埼玉県
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を対象地域として,アニメ聖地における新たなコラボレーション商品開発やビジネス開発の主体であった筆者自身を研究対象に,アニメを活用した地域活性化の取り組みにおける自身の現場経験をデータ化し,そのプロセスを検討した.また,コラボ商品開発や新規ビジネスに関わった各種プレーヤーのマッピングを行い,時系列でどのようにプレーヤー間の関係性が進化したかを分析した.
3.結果 第一に商品開発として,純米酒みなみを取り上げた.純米酒みなみの商品化の目的は埼玉県栗橋町の地域振興で,鉄道むすめや栗橋みなみのファンがターゲットであり,そのため東武鉄道株式会社と株式会社トミーテックとの協力関係を結び,作品の中の物語と地域を繋げるといった工夫がなされた.主体としての筆者の役割は,埼玉県栗橋町の井上酒店と連携し,商品コンセプトの提案,純米酒みなみの酒蔵の選定,ラベルデザインの校正確認と,商品開発の中心的役割を果たした. 第二に新規ビジネスとして,オタ婚活を取り上げた.オタ婚活の開催の目的は埼玉県鷲宮町の地域振興および婚活支援で,アニメ・漫画・ゲームのファンが主なターゲットであり,そのため埼玉県やアニメコンテンツとのコラボを実現し,異性のファン同士が安心して,共通の話題で盛り上がれるよう工夫がなされた.筆者は,オタ婚活という名前の発案,オタ婚活の企画,プレーヤーの巻き込み,イベント運営,当日の司会,マスコミやSNSの対応をし,プロジェクトの中心的役割を果たした.
4.考察 埼玉県
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のアニメ聖地において,主体であった筆者自身が深く関与することで,アニメファンと地域の良い関係が醸成されて行ったとともに,新たなコラボレーション商品開発やビジネス開発が行われたことが示された.
参考文献 Markusen, A. 2003. An Actor-Centered Approach to Regional Economic Change. Annals of the Association of Economic Geographers, 49, 415-428. 中村和彦 2008. アクションリサーチとは何か. 人間関係研究, 7, 1-25. 山村高淑 2008. アニメ聖地の成立とその展開に関する研究 アニメ作品 「らき☆ すた」 による埼玉県鷲宮町の旅客誘致に関する一考察. 国際広報メディア・観光学ジャーナル, 7, 145-164.
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