私自身は歴史が好きだったし,自分自身でも何冊かの歴史研究の書物を上梓してきた。それでも自分自身を歴史研究者だと考えることは出来ずにきた。本稿では,私の研究を振り返る中で,なぜ私がそう考えてきたのかを整理した。
しばしば必然性をもって語られる歴史には,実は多くの分岐があった。今この時点が未来への分岐であるように,過去も分岐の連続であったに違いない。その分岐の舳先に立って,先人たちは意思決定を重ねてきた。先人たちはどのような環境の中で,何に向き合い,どのようにして未来を選択してきたのかを知りたい。そのことを知ったからといって,今現在の私たちの選択肢が豊かになるわけではない。それでも知りたい。それは私の個人的な関心に過ぎないが,もしそのことに共感してくれる人たちがいるならば,私の私的な研究にも社会性が与えられることになるだろう。
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