ドイツやスイスにおいては、1970年代後半から、水質問題を下水処理施設によって解決することを入り口として、河川に水を取り戻し、さらには河川をコンクリート漬けの川から豊かな生態系をもった「川らしい川」へと蘇らせる「近自然河川工法」が盛んに行われている。人間中心主義にもとづく近代技術主義からの脱皮が図られているのである。
一方、1990年代の日本においても、建設省がこの「近自然河川改修法」を「多自然型川づくり」と呼び、率先して導入しようとしている。しかしこの「多自然型川づくり」は、近代技術主義的な「機械論的河川観」のいわば極致とも言える「大規模放水路」や「地下河川」あるいは「地下貯水池」等の建設といった大規模施設型の治水構想と同時並行的に進められている。
ところで、1980年代初頭には、従来の「機械論的河川観」による治水方式に対する反省にもとづいて、狭い「河道」やそこに設置される「施設」に依存するのではなく「流域全体」を視野に収める形で治水を進めることを目的として、脱近代志向の「総合治水対策」が策定されていた。上記の大規模施設型治水構想はこれに全く逆行するものである。
こういった意味において、日本における「多自然型川づくり」は、近代技術主義の克服を目指した「総合治水対策」の延長線上にあるものではなく、河川環境事業という名の文化事業、言い換えれば「親水公園」的なものの建設の段階にとどまっているにすぎないと言えよう。
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