日本の宗教的伝統はこれまで神道、仏教、道教など成立宗教の側から論じられることが多かった。けれども日本人は自己の宗教生活の必要に応じて、これらの諸宗教を適宜にあるいは習合した形でとり入れてきた。民俗宗教はこうした常民の宗教生活を通して日本の宗教的伝統を解明する為に設定した操作概念である。この民俗宗教は自然宗教に淵源をもつ神道と、創唱宗教である仏教、中国の道教、儒教、これらが混淆した習合宗教、さらに日本で成立した修験道、陰陽道、萌芽期の新宗教などが民間宗教者によって常民の宗教生活の要望に応じるような形で唱導され、彼らに受容されたものである。けれどもこれまでの研究では民俗宗教は単に形骸化した残存物と見られがちであった。本論文ではこの民俗宗教の成立と展開に関する先学の研究を特に民間宗教者の活動に関するものを中心に検討した。そして常民の民俗宗教史の中に日本の宗教的伝統の解明の鍵があることを指摘した。
抄録全体を表示