【目的】歩行時のarm swing(腕振り)の対称性を検証した先行研究は上腕の仰角を用いて,非対称性が存在するとしている.しかし,非荷重下で多セグメントからなるシステム特性上,質量分布が挙動に影響すると推測し,本研究では上肢の質量中心点(COM)をパラメータとし,その有用性を検証すると共に,対称性の評価方法も検討した.
【方法】健常成人11 名を対象に0.9,1.2,1.5,1.8m/s の4 速度条件の定常歩行をトレッドミルで各3 試行行った.三次元動作解析装置(VICON,100Hz)を用い,マーカー座標を記録,各試行16 歩行周期分を解析した.COM は体重と上肢の矢状面座標情報から算出し,データ処理及び仰角の算出は先行研究と同様に行った(2 次Butterworth filer,cutoff5Hz).これらを相互相関係数で波形の類似性を検証し,歩行周期毎のpeak to peak からSymmetrical Index(SI)で対称性を数値化し,平均,SD の積率相関係数で比較を行った.本研究はヘルシンキ宣言に則り計画し,被験者には十分な説明を行った上で書面にて同意を得た.また,埼玉県立大学倫理審査委員会の承認を得ている(承認番号27507).
【結果】COM と仰角には,全被験者の全試行で左右共に高い相互相関係数(0.97~0.99)を認め,同様にSI の平均
(0.98),SD(0.96)も高い正の相関を認めた.加えて,SI の平均はCOM で-9.3~6.1±5.6%,仰角で-10.0~6.7±6.7%であった(p<0.05).
【結論】仰角とCOM は波形の類似性が高く,SI も全試行で高度に一致していたことから,矢状面振幅のパラメータとしては等価と言える.SI の値は先行研究と同等であったが,SD は先行研究に比べ低値を示し,本研究ではより各被験者でばらつきが少なく対称な結果であったと言える.本結果から,肩を原点とした矢状面振幅の比較では非対称性を認めることはできず,他次元要素や体幹の回旋運動等の影響を考慮した解析手法が求められることを示唆している.
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