【はじめに】
膝関節疾患の動作障害として、歩行でのヒールロッカー機能の低下や起立時の足関節背屈制限による重心の前方移動の制限は臨床的に多く見られる。高齢者の場合、非荷重下で得られた足関節の機能が、荷重下では反映しにくいことを多く経験する。これは非荷重下と荷重下では、足関節の関節包内運動が逆に作用する、つまり非荷重下では凸の法則、荷重下では凹の法則に従い関節包内運動が生じるためと考えた。荷重位にて関節運動を誘導すると、動作改善に結びつくことは多くの臨床家が日々経験していることだが、そのメカニズムと方法の成書での紹介は少ない。今回、理学療法開始当初から荷重位での自動介助運動での足関節包内運動の誘導のアプローチを中心に行い、好結果が得られたので紹介する。
【症例】
82歳女性。既往歴:糖尿病(60代から)、右TKA術(6年前)現病歴: H22.2.16TKA術施行。6週間の入院後、退院1週間後に外来受診、リハビリ開始。主訴:退院後に痛みの出現。腰痛(常に鈍痛、歩行時に痛み増強)、左膝痛(起立時)。
【評価】
右手でTcane把持の2動作歩行。歩行周期を通して体幹は常に右へ傾斜し、ヒールロッカー機能、ダブルニーアクションが生じず、立脚中期には膝過伸展となる。立脚期を通し左腰部(L3~5付近)の筋緊張は高まり、立脚中期にはさらに増強される。起立時に足関節背屈不十分なため、重心の前方移動が不十分で、床面を手で押しながら動作を行う。その際、左膝に痛み出現。左膝に熱感・腫脹の炎症所見+。ROM:左膝屈曲105°、右左足関節背屈5°(膝伸展位)、30°(膝屈曲位)、MMT:左膝伸展筋力4(20°程度のエクステンションラグ+) 。腰痛、左膝の痛みの原因として、足関節の動作中の背屈が不十分なため、左膝へのメカニカルストレスによって誘発されたものと推測した。
【方法と結果】
フォワードランジ荷重位で足関節背屈の関節包内運動を凹の法則に従いアシストしながら行った。その結果、起立時の足関節背屈が生じやすくなり、重心の前方移動がスムーズとなり、起立動作が容易となり、痛みは消失した。また歩行時のヒールロッカー機能、ダブルニーアクションは弱いものの、立脚中期での膝過伸展が消失し、歩行時の腰痛は消失した。週3回の外来リハビリを通して、獲得した動作のキャリーオーバーが得られている。
【考察とまとめ】
非荷重下と荷重下での関節包内運動は、凹凸の法則が逆に働く。非荷重下でのアプローチ後に、荷重位での自動介助運動での足関節包内運動の誘導を誘動することにより、すぐに動作に適応することができ、動作改善のための運動学習効果が増すことが示唆された。今回は起立動作にのみ焦点を当ててアプローチを行ったが、今後は歩行周期の中での足関節の動きに着目してアプローチ方法を検討していきたい。
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