現代における地方地域の交通システムに目を向けると,自動車交通によって支えられていることが明らかである.これは,1965年頃から1980年頃の大規模なモータリゼーションのほか,1950年代後半からの高度経済成長に伴った地方の人口流出,近年の少子高齢化が大きく影響している.これらは中山間地域や過疎地域,人口減少地域において影響しており,公共交通の存廃問題や,地域住民や地域コミュニティに対する問題にもつながっている.
地域の交通に関しては,有末武夫をはじめ,青木栄一や三木理史らを中心に様々な視点から研究が進められてきた.しかしながら,地域の交通システムの変容を明らかにする上で,歴史的な交通インフラの整備だけではなく,現在に至る交通システムの変化や,モータリゼーションの進行と公共交通における規制緩和の影響,地域の特性と地域住民の意識,交通行政,交通事業者との関係性を明らかにしていく必要があると考える.また,過疎地域および人口減少地域は中山間地域だけでなく沿岸部にも点在しており,沿岸部を含む地域の交通システムの変容を明らかにする必要もあると考える.
本研究においては,特に沿岸地域に位置する人口減少地域(以下,沿岸人口減少地域)に着目し,交通行政の変化と地域住民および地域コミュニティ,交通事業者の対応との関係から,交通システムの変容を明らかにすることを目的としている.沿岸人口減少地域および沿岸過疎地域においては,交通システムの形成および変容に関し,国政,県政,市政・町政といった地方自治行政の各レベルによる段階的な政策の影響がみられる.特に国政においては,原子力を中心とした電源開発をはじめ,
全国新幹線鉄道整備法
に基づく整備新幹線建設,公共交通における規制緩和政策といった交通政策に関する大枠の部分が決定される.また県政および地方自治行政においては,国政を踏まえた上での具体的方針の策定や公共交通維持のための支援,観光二次交通の開発,交通広場の整備,道路交通網の整備など細部に関して決定・整備がなされる.一方で,地域住民や地域コミュニティ,交通事業者は交通行政に対し充分な認識や見解を持たないまま臨機応変な対応を迫られてきたのではないかと考えられる.こうした状況を明らかにする過程で,まずはその地域の交通システムの変化と特徴を明らかにする必要がある.
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