文化地理学の研究対象のひとつである言語資料をもとにして,琉球列島久米島の基層的文化複合の地域性を本稿では分析する.調査地である久米島島尻において,筆者は9名の高齢者インフォーマントから計198種の有用植物方名を採集したが,それは,栽培植物(穀類),同(蔬菜類),同(工芸作物・果樹類),薬用植物,天然果樹類,食用野草,生活および生産資材用植物,防風林・生垣・庭木用植物,その他の有用植物の9区分に分類された.そして,これらの方名リストを,琉球方言分布地域内の5圏域(奄美大島圏・南奄美圏・沖縄本島圏・宮古圏・八重山圏)での事例と比較対照し,久米島島尻方名リストの文化地理的な位置づけを試みた.その際に,共通音節をともなう類例の存在が確認された植物種数の比率を「方名共通率」として表示し,比較分析の成果とした.分析の結果, 5圏域との方名共通率は,奄美大島圏56.4%, 南奄美圏62.0%, 沖縄本島圏83.0%, 宮古圏50.4%, 八重山圏56.3%となり,久米島島尻事例と沖縄本島地域との近縁性が顕著にあらわれるという結果が得られた.ここでの指標をもとにみる限り,久米島と沖縄の中心地域との基層的文化複合面における密接な関連が認められた.
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