1.研究の目的と方法 本稿は,ラオス南部の中心都市であるパクセ近郊に開業した日本・ラオス合弁企業(以下V社)における外注作業者の社会調査から,彼女らがどのような動機により家庭内で行う
内職
を請け負うようになったのかを明らかにする。
V社は,2013年12月に開業した繊維メーカーであり,工場周辺の農村部から多くの女性従業員を雇用し,日本の技術を伝授しながら多様な製品を製造し,日本に向けて輸出している。同社は,2015年に一部製品の製造を工場周辺農村の女性に委託し,完成品を同社に納めさせている。
筆者ら愛知大学の研究グループでは,2014年からV社とその周辺の農村部で調査を実施し,筆者は村落の社会構造や親族関係を中心に調査を行っている。一連の農家調査の過程で,筆者はV社の外注作業者の社会関係も調査した。
本稿では,村落内部の社会関係が,農村女性が外注作業を請け負う際の動因のひとつとなったことを明らかにする。調査対象は,以下の4ヵ村に居住する,自宅で外注作業を請け負う23戸26人の女性である。年齢構成は,10歳代18,20歳代5,30歳代2,40歳代1人である。
本稿が対象とする4ヵ村は,いずれもパクセ近郊のメコン川左岸に位置する。村長らからの聞き取りと高木(2015)により,各村の面積,人口,戸数と,主要産業(上位3位)を以下のようにまとめた。主要な民族はいずれもラオ族である。
A村:面積927ha,人口998人,戸数200戸,主要産業は稲作,漁業,畑作
B村:面積518ha,人口2,268人,戸数379戸,主要産業は稲作,商人,畑作
C村:面積366ha,人口417人,戸数65戸,主要産業は畑作,商人,賃労働
D村:面積59ha,人口2,364人,戸数491戸,主要産業は賃労働,公務・会社員,商店経営
2.結果 A村は,メコン川に面した半農半漁村である。この村にはV社の女性従業員が居住しており,彼女と同世代の友人・知人と親族関係のネットワークが動因のひとつとなり,女性たちが
内職
を始めた。
B村は,メコン川支流に面した農村である。この村にはV社の女性従業員が居住しており,同一グループ(隣組)または隣接グループに居住する女性たちが
内職
を始めた。
C村は,メコン川からやや離れた農村であり,同一グループに居住する同じ祖父母をもつ女性たちと,そのうちの1人と友人,地縁関係にある女性が
内職
を始めた。
D村は,メコン川から離れた元農村であり,現在では多くの場合,農業以外の仕事が住民の主たる収入源となっている。この村では,同一の中学・高校に通学する同世代の友人関係が,
内職
を始める動因のひとつとなった。
本事例の分析によると,就学中の10歳代の女性が多く,彼女たちの①友人・知人関係,②親族関係,③地縁関係が,外注作業を請け負い,自宅で
内職
を始める動因のひとつとなった。なお,V社では外注作業が彼女たちの学業に支障をきたすと考え,授業期間中は外注を控えている。
【付記】
本稿は,愛知大学中部地方産業研究所共同プロジェクト研究「ガラ紡技術移転に伴う地域社会の変化」(代表:樋口義治)による研究成果の一部である。
【文献】
樋口義治(2015)「ガラ紡技術移転に伴うラオス地域社会-趣旨と構成-」『年報・中部の経済と社会』2014年版。
高木秀和(2015)「ラオス南部パクセ周辺の村落における村落構造と生活実態」『年報・中部の経済と社会』2014年版。
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