【目的】
立位での側体重移動練習は、歩行の立脚期を想定した運動療法として用いられる。このとき、我々は体幹筋の筋活動に着目し、特に
内腹斜筋
の筋活動を促すための練習として用いることが多い。
内腹斜筋
の筋活動は、立脚側下肢への荷重が最も増大する立脚中期において、荷重に伴って生じる仙腸関節への剪断力に対し、安定させる作用として増加することが三浦らにより報告されている。我々の先行研究においても、一側下肢へ側方体重移動練習が、
内腹斜筋
の筋活動に与える影響について筋電図学的に検討し、立証してきた。しかし、立位にて
内腹斜筋
の筋活動を促すことは、側方体重移動の他でも可能であることを臨床上経験する。具体的には、一側下肢への側方体重移動後、体幹を直立位のままで骨盤を前方へ移動し、前足部の荷重量を増加することで、
内腹斜筋
を含む体幹前面筋の筋活動が高まることを触診にて確認することができる。そこで今回は、上記の臨床経験を筋電図学的に検討し、運動療法に応用することを目的に、立位での一側下肢への側方体重移動における前足部荷重量の変化が
内腹斜筋
・腹直筋の筋電図積分値に与える影響について検討したので報告する。
【方法】
対象は、整形外科的・神経学的に問題のない健常者男性10名20肢( 平均年齢 26.4歳 )とした。まず、被験者に安静立位をとらせ、筋電図を用いて移動側
内腹斜筋
と移動側腹直筋の筋電図波形を5秒間、3回測定した。次に、安静立位の状態から一側下肢に体重の95%を荷重した立位姿勢をとらせ、これを開始肢位とした。測定課題は、開始肢位から移動側の前足部荷重量を40%、50%、60%、70%、80%、90%へと順不同に変化させた。このとき、移動側の前後荷重量を確認する目的で、体重移動側足底に2台の体重計を設置した。足部位置は、移動側の横足根関節が2台の体重計の中心上に位置するようにした。測定課題中の規定は、体幹・骨盤の回旋は起こらないように指示し、両肩峰及び骨盤は水平位とし、体幹は伸展や屈曲が生じないよう常に直立位に保持させた。また、前足部の荷重量増加に伴って踵が浮かないように接地させた。そして、それぞれの前足部荷重量における移動側
内腹斜筋
と移動側腹直筋の筋電図波形を5秒間、3回測定し、3回の平均値をもって個人のデータとした。つぎに、安静立位での各筋の筋電図積分値を1とした筋電図積分値相対値を求め、前足部の荷重量変化が筋電図積分値に与える影響について検討した。なお、統計処理には一元配置分散分析法とTukey-Kramer法の多重比較を用いた。
【説明と同意】
各被験者には本研究の目的と内容について説明を行い、同意を得た後に測定を行った。
【結果】
移動側
内腹斜筋
の筋電図積分値相対値は、前足部荷重量の増加に伴って増加する傾向を認め、前足部荷重量80%において40%と、また前足部荷重量90%において40%・50%・60%・70%と比較して有意に増加した(p<0.05)。移動側腹直筋の筋電図積分値相対値は、前足部荷重量の増加に伴って増加傾向を認め、前足部荷重量90%において、40%及び50%と比較して有意に増加した(p<0.05)。
【考察】
本研究の測定課題では、前足部の荷重量増加に伴ってその肢位保持のために、体幹は伸展しようとする。これに対し腹直筋は、体幹が伸展しようとする力に対し、体幹屈曲作用にて胸郭を固定し、体幹伸展を制御したと考えられる。三浦らは、骨盤を固定して胸郭を制御するためには、
内腹斜筋
の筋活動を増加させて腹直筋を活動させる必要があることを報告している。これは、
内腹斜筋
が腹直筋鞘を介して腹直筋と筋連結を有するため、
内腹斜筋
の水平方向の筋線維において筋活動が高まると、垂直に存在する腹直筋が活動しやすくなるという、いわゆる土壌作用(soil function)が高まるためとされている。このことから、
内腹斜筋
は体幹伸展に対する腹直筋の胸郭固定作用の効率を高めるために活動したと考える。本研究結果においても、腹直筋の筋電図積分値相対値が前足部荷重量90%において有意に増加したのに対し、
内腹斜筋
は80%において有意に増加したことから、
内腹斜筋
は腹直筋よりも早期に筋活動を高め、腹直筋が活動しやすい土壌の構築に関与したものと考えられる。以上より、本研究の測定課題にて各筋の筋活動を高める場合は、
内腹斜筋
は80%以上、腹直筋は90%を前足部に荷重する必要があると考えられる。
【理学療法学研究としての意義】
一側下肢への体重移動後に、前足部への荷重量を増加させることは、
内腹斜筋
と腹直筋の筋活動を促すための有用な運動療法になると考えられる。
抄録全体を表示