この論文では、微分幾何学において重要な対象である調和
写像
を取り扱う。一般に、リーマン多 様体間の
写像
に対してエネルギーが定義され、そのエネルギーが停留値となるとき、対応する
写像は調和写像
と呼ばれる。身近な例として、閉じた針金枠に石鹸膜を張ってできる極小曲面等が挙げ られるが、これは2次元ユークリッド空間の部分領域から3次元ユークリッド空間への角度を保つ調和
写像
として理解される。極小曲面における研究は歴史が深く、様々な研究者によって調べられてきた。
その後、極小曲面の研究の延長として、2次元ユークリッド空間をリーマン面に、3次元ユークリッド空間をコンパクト型の対称空間に変更した場合の調和
写像
が注目された。まず最初に、リーマン面がリーマン球面の場合が研究され、リーマン球面からコンパクト型の対称空間へのすべての調和
写像
は、リーマン球面から、その対称空間に付随するツイスター空間への水平的な正則
写像
から構成されるといった十分な結果が得られている。現在では2次元トーラスからコンパクト型の対称空間への調和
写像
の研究が盛んに行なわれている。
一方、定義域を一般次元の複素ユークリッド空間、さらに、値域を一般次元の複素グラスマン多 様体に変更した場合の多重調和
写像
の集合において、Ian McIntosh により導入されたスペクトルデータから構成される多重調和
写像
が存在する。しかしながらスペクトルデータは具体的に構成さ れていなく、分類もされていない。またどのスペクトルデータが周期的な調和
写像
、すなわち高次元複素トーラスからの多重調和
写像
に対応するのかも不明である。
そこで、本論文では、スペクトルデータのなかで、スペクトル曲線が有理曲線や楕円曲線となるものをすべて分類し、それに対応する複素ユークリッド空間から複素グラスマン多様体への多重調和
写像
を厳密に構成する。またこのようにして得られた多重調和
写像
が、周期性をもつための十分条件を与える。
抄録全体を表示