インフルエンザワクチン接種の経済効果を評価するため, 先行研究においてインフルエンザ感染患者の保険請求額を調査したところ, 約7, 000円から約9万円のばらつきがあることが分かった. 薬価の異なる同効の薬剤の存在と, 薬剤の投与日数の違いが, 金額のばらつきの主な原因と考えられた. 薬剤の選択や投与期間に基準の無い本邦において, 保険請求額でワクチンの経済効果を評価することは不適切と考えた. 今回の研究においては各種治療および検査の施行日数を調査し, ワクチン接種の効果を検討した. また, どのようなactivity of daily living (ADL) の患者にワクチン接種を行うことが効果的かについても併せて検討した.
ワクチン接種群の経口抗生物質は2.64 (±6.40) 日, 抗生物質注射は252 (±553) 日, 末梢血液検査は2.63 (±2.22) 日, 胸部X線写真は1.30 (±2.07) 日であった. 接種群と非接種群で有意差が見られた項目は, 抗生物質注射 (p<0.001), 末梢血液検査 (p<0.01), 胸部X線写真の施行日数 (p<0.001) であった. 更に, 対象群をADLの段階別に検討したところ, 「全介助群」でワクチン接種群と非接種群で有意な差が見られた項目は, 経口抗生物質 (p<0.001), 抗生物質注射 (p<0.001), 末梢血液検査 (p<0.001), 胸部X線写真の施行日数 (p<0.001) であった. 「半介助群」でワクチン接種群と非接種群で有意差が見られたものは抗生物質注射の施行日数 (p<0.001) のみ, 「自立群」では胸部X線写真の施行日数 (p<0.001) のみであった.
今回の研究の結果, インフルエンザワクチン接種によって医療資源が削減される可能性が示唆された. さらに, 本研究の結果よりハイリスクグループと考えられる「全介助群」からワクチン接種を行うのが最も効果的であると考えられた.
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