中国では,前11世紀頃から文字が使われだし,歴代王朝は,竹簡・木簡(併せて簡牘と呼ぶ)に執拗に記録を残した。前5世紀頃より,哲学(孔子,孟子),文学が生まれて,それらは竹簡に記録され,その上で議論が交わされ,簡牘は文明の発展を支えた。ただし,竹簡の巻き物は嵩張り,個人の知識の量は,荷車を単位として,その台数で表現された。
そして,蔡倫が105年に紙を発明したとされている。それまでに,漁網,織物等の廃棄物から紙がつくられていたが,蔡倫は,楮,大麻の靭皮を原料として,上質の紙を製造する技術を開発,その普及に尽くした。この紙が,軽さ,記録密度の高さ,そして,多分,コストメリットから,時間をかけて簡牘に代わり,唐,宋代の文明の発展を引き出す。
社会が拡大し,より文明化すると,紙の需要が増加し,原料が不足しだした。これを補ったのが竹で,後に,楮に取って代わった。竹は,精錬発酵と木灰による煮沸を,楮以上に繰り返すことで,叩解によりパルプになる。原料の豊富さから大量生産が可能で,コスト的に楮に競争できたであろう。竹パルプは楮パルプより短繊維で,平滑で地合の良い紙に仕上がる。宋代から木版印刷が普及し,明,清と最盛期を迎える。この印刷需要が,より適した竹紙への転換を進めたのであろう。
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